VOL.10
日本語が母語である私は、普段 “文法” “文型” “語順” などほとんど何も意識せずに言葉が口から出てきます。当然のことですね。しかし、英語を話そうとすると、慣れない表現を使う際には、正しい語順や文法を意識せざるを得なくなってしまいます。
皆さんも多かれ少なかれ、同じような経験、思いをお持ちのことと思います。異なる言語には異なる語順、文法が存在するので、避けては通れないことでしょう。
そこで、外国語を学習する上で、まずは本コラム読者の多くの方にとっての母語であろう日本語について、見つめてみたいと思います。
「母語である日本語を見つめてみる」
今回は、言葉の順序、“語順” について、触れてみます。
日本語の基本的な文型のひとつに「SOV型」というものがあります。中学校・高校にて英語を学習した際に、英語は「SVO型」だとか、「SVOC型」であるといったことを習った記憶のある方も多くいらっしゃることでしょう。Sは主語(subject)、Vは動詞(verb)、Oは目的語(object)、そしてCは補語(complement)を表し、SOVやSVOといった語順で基本的な文が作られることを示しています。
「私は/あなたを/愛している」の日本語文は、“私”がS、“あなた”がO、“愛している”がV、つまり「SOV型」です。これが英文の「I/love/you」では、“I”がS、“love”がV、そして“you”がO、つまり「SVO型」となるわけです。
日本人は、結論をなかなか言わないと外国の方から揶揄されることがあります。上述の例では、英語であれば2単語目に「love」という意思(結論)が出てきますが、日本語では3文節目に「愛している」が来るため、聴き手にとっては、「愛しているのか、嫌いなのか」最後にならないと、どちらを言われるのか分からないということになります。
他の事例を見てみましょう。
「食べさせられた」という文章を分解してみます。
“食べる”という動詞の基本形をもとに、“させる”という使役、“られる”という受け身、そして、最後に語尾を過去時制にすることで、「食べさせられた」となっています。
つまり、聴き手にとっては、最後まで聞かないと、どういう行為が起きたのか、いつ起きたのかが判明しにくい構造となっています。
また、名詞の修飾の仕方、その語順も、結論が何であるかが最後にならないと分かりにくい要因の一つでしょう。日本語は、前から後ろのものを修飾していく形をとります。「赤い・靴」「大きな・岩」といった並びですね。
極端な例では、次のような文章が書けてしまうわけです。
「昨日、昔からの知り合いで、この20年間音信が途絶えていた背の高い、色白の黒髪で、頭脳明晰かつ周りのみんなからの人気者であったが、今は髪の毛が薄くなってしまっていた初老の男性が、駅のホームに立っているのを見かけた」
如何でしょうか。
◎文章を読み始めた段階で、見かけた人物が男性なのか、女性なのか、すぐに分かった人はいないと思います。
“昔からの知り合い”、“この20年間音信が途絶えている”、・・・・・、“初老の”という各要素のすべてが“男性”という名詞を修飾(説明)しているんですね。
◎また、そもそもこの文章が、“見かけた”という行為を説明するためのものであることを最初の段階から推測・把握できた人は皆無でしょう。
このように、語順という言語における重要な要素によって、日本語を母語とする我々日本人は結論やコアの情報を最後に言わざるを得ない、自然とそうしているわけです。
この性質を上手く使った漫才やコントをよく目にします。恐らくこうであろうと聴き手に思い込ませておき、最後のオチ部分で意外な結論を提示することで、効果的に笑いをとるわけです。そんな見方で、お笑いを見てみると、また奥深いものがあるのではないでしょうか。
そして、先ほどの事例を英語で書く場合、
I saw the gentleman yesterday(昨日、とある男性を見かけた)と、まず結論の行為の説明がきて、その後に
I saw the gentleman yesterday who was middle-aged and …..
と、“男性を見かけた”というコアの情報をまず伝え、その後に、その男性がどのような人であるか、人であったかを説明する修飾句が続いていきます。
つまり、聴き手にとっては、何が起きたかをすぐに把握し、その上で詳細な説明を理解していくという流れとなります。日本語とは、大きな違いですよね。
このような語順という要素が、ものごとの考え方、思考プロセスに大きな影響を及ぼしていることがお分かりいただけると思います。母語と使用する外国語に関して、そんな所まで意識して、コミュニケーションを図れるようになると、素晴らしいと思いませんか!?
投稿者:
教務担当者
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